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新聞記事を嘆く(41) 並列の助詞「とか」

  まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
  今回は「新型コロナ 揺れる経済 対面の価値 今こそ重要」と題する記事で、疑問のある個所をそのまま引用すれば下記のようになります。
<自己都合退職なら退職金を少なくするとか、年齢給といった制度はなくしました>
  この記事の問題は、基本的に文の主旨が読者の頭にスムーズに入りにくいということです。具体的な問題点は、(1)動詞句「少なくする」と「なくしました」とが一見並列しているように思えること、(2)「自己都合退職なら」は「自己都合退職するなら」を略した言い方ですが、「退職する」と「少なくする」との主語が異なること、(3)並列の助詞「とか」が前半にしか使われていないこと、(4)後半に「とか」を用いるとすれば「制度とか」になるはずですが、前半の「とか」は「する」という動詞に付き、後半の「とか」は「制度」という名詞に付いていること、そして(5)「なくしました」の目的語がはっきりしないことです。
  (1)について、「自己都合退職なら、退職金を少なくするか、年齢給といった制度はなくしました」と読んだ場合、よく考えると「自己都合退職を理由にして年齢給という制度をなくす」では意味が通らなくなるので、「自己都合退職なら退職金を少なくする」と「年齢給という制度をなくす」とが並列されていると解釈しなくてはなりません。しかし、読者に考えさせるというのは、文に欠点があるからです。
  (2)について、「自己都合退職する」のは社員であって、「退職金を少なくする」のは経営者です。「自己都合退職なら退職金を少なくする」にことばを補うと「社員が自己都合退職するなら、経営者は退職金を少なくする」となり、このように主語を補うと非常に理解しやすくなります。ただ、「経営者が自己都合退職する」こと及び「社員が退職金を少なくする」ことはありえませんから、元の文であっても考えれば意味はわかります。
  (3)について、三省堂「新明解国語辞典」(1983)は「とか」を副助詞とし、「思いつくままに顕著な例を列挙することを表す」とし、例として「交通費とか昼食代とか」「僕が行くとか、君が来るとか」「長いとか短いとか」を挙げており、「とか」は例示するものの両方についています。ところが今回の文では「とか」が前半にしか登場しません。
  (4)について、上記の例から分かるように両方の「とか」には、名詞、動詞、形容詞など同じ品詞のことばが付いています。ところが今回の文では「制度は」に「とか」を補って「制度とかは」にしたとしても、前半の「とか」は動詞「する」に付き、後半の「とか」は名詞「制度」に付くことになります。
  (5)について、「なくす」の目的語は名詞又は名詞句のはずですが、前半の名詞「退職金」を目的語とすると意味が成り立たず、前半に目的語となるべき名詞又は名詞句が見当たりません。これがこの文の最大の問題点です。
  今回の文は、読者が頭をめぐらせば理解できないことはありませんが、このように数々の問題点を含んでいます。それでは今回の文を書き換えてみましょう。
  第1案:<社員が自己都合退職するなら退職金を少なくする制度とか、年齢給といった制度とかはなくしました>
  第2案:<自己都合退職なら退職金を少なくする制度や、年齢給といった制度はなくしました>
  第1案について、「とか」をあえて2回用いると冗漫な感じがします。第2案では「少なくするとか」を「少なくする制度や」として、並列の助詞「とか」の代わりに「や」を用い、「制度や」としました。このように訂正しても文の文字数は1字しか増えません。また「や」は必ず名詞又は名詞句の並列に用い、しかも最初の名詞又は名詞句に付くだけです。ということで第2案を推奨します。結局今回の記事は、簡潔に表現するために「制度」を1回しか使わなかったために分かりにくくなったのではないでしょうか?
  この記事を書いた記者は、文章を読み直していなかったのでしょうか?また校閲部門は、この文では分かりにくいことに気が付かなかったのでしょうか?いずれにしても嘆かわしいかぎりです。
 
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