HOME » 翻訳 » 英日翻訳 » 情報分割手法

情報分割手法

1. 翻訳とは
翻訳とは、言語Aで述べられた文(原文)をそれと等価の言語Bで述べられた文(訳文)に置き換えることです。ここで大事なのは「等価」ということです。「等価」とは、価値が等しいことですが、言い換えれば訳文には原文の情報が過不足なく含まれているということです。訳文に原文の一部の情報が含まれていない場合、その訳文はいわば「欠陥商品」です。このことを頭に刻み込んでから、以下の内容に進んでください。

2. 情報分割とは
英文と和文のもっとも大きな違いとして、英文では結論が初めの方に現れるのに対して、和文の場合、最後まで読まないと結論が分らないという点が挙げられます。しかも、英文では、ある名詞または名詞句の前に形容詞のような修飾句があり、しかもうしろに前置詞、現在分詞、過去分詞、不定詞、関係代名詞などを用いて長々と修飾語句が続くことがあります。このような英文を日本語に直訳する場合、日本語では必ず修飾語句が名詞または名詞句の前にくるので、英文の語順とは逆にうしろから前へ前へと訳し、かつ英文の前置形容語句も訳すことになります。そのような直訳文を読むと、読者はその文の最後に達するまで緊張を強いられ、結局よく理解できないという事態が生じることがあります。
また、英語の場合、冠詞、単数・複数、動詞の活用語尾などから、どの語句がどの語句を修飾しているのか、比較的判断しやすいのですが、日本語の場合、修飾語が延々と続く文章を読むと修飾関係が判断しづらく、頭が混乱してしまいます。これを、防ぐ方法として、読点を適切に打つことが有効ですが、これもあまり修飾語句が長くなると効き目が薄れてしまいます。
このような場合に有効な手法が、「情報の分割」です。すなわち、修飾関係の複雑な英文には複数の情報が混在しているので、和訳に際しては情報のまとまりごとに文を分割して、いったん独立した単文をこしらえ、そのまま並べて訳文とするか、あるいはそれら複数の単文を「・・・であるが、・・・」、あるいは「・・・なので、・・・」というように複文に構成し直す必要があります。こういう操作を行うと、当初分りにくかった訳文が、見違えるように分りやすくなります。事実、日本人が初めから日本語で書く文章は、ふつう情報分割したものになっています。
なお、ここで「情報」というのは一つの文そのもの、または形容詞(句・節)に修飾された名詞(句)を一つの文に展開したものを意味します。たとえば、The vibration data taken for the steam dump application is shown in Figures 3 and 4.という文は、The vibration data is taken for the steam dump application.とThe vibration data is shown in Figures 3 and 4.との2つの情報からなると考えるわけです。
 
3. 関係代名詞又は関係副詞を含む文の和訳
関係代名詞を含む文の和訳でもっとも難しいのは、関係代名詞の前に前置詞が付く場合です。たとえば、This is the pen with which I write.という英文があります。これを「これが、私が書くペンです」とすると何か違和感があります。というのは、この英文は別にして「これが、私が書く小説です」という文もありえるので、「私が書くペンです」は、私がペンを書く」のかと一瞬想像してしまうからです。すると「これが、私が使って書くペンです」とすればよいのでしょうか?日本語では主語+目的語+述語の言い方がふつうなので、この文も日本語として不自然であり、そもそも英文が存在せず、初めから日本語で述べるならこんな表現にはならないはずです。ましてや、いわゆる学校英語的な「これが、それでもって私が書くところのペンです」も極めて不自然です。というのは指示代名詞(この場合「それ」)は、すでに登場した事物を指すからです。
ここで「情報分割」の手法を使ってみましょう。原文は、(1) This is the pen.(これがペンです)と(2) I write with the pen.(私はペンで書く)との二つの情報で成り立っています。この(1)と(2)とを組み合わせて1.で述べたように情報の過不足がないように訳文を作ると「私はペンで書きますが、これがそのペンです」となります。この接続助詞「が」は「私はペンで書くが、君は鉛筆で書く」のような逆態接続ではなく、単にある情報をあたえるだけの順態接続の役目しかありません。この順態接続の「が」は、たとえば「来週創立記念日の式典があると聞きましたが、部長は出席されるのですか?」のように日本語に頻繁に登場します。英文に関係代名詞又は前置詞+関係代名詞が含まれている場合、まず情報分割を試み、そのあとこの「が」を含む訳文にならないか考えてみてください。
注:上記はあくまでもThis is the pen.にこだわった訳文ですが、これをthis penと言い換えるなら、「私は、このペンで書きます」あるいは「私は、このペンを使って書きます」となり、この方が日本語としてもっと自然な言い方になりかつ情報の過不足もありません。
もう一つの例文としてThe circuit-breaker with which the arc fault detection unit is assembled is marked.をとりあげます。これを情報分割すると(1) The circuit-breaker is marked.(回路遮断器にマーキングする)と(2) The arc fault detection unit is assembled with the circuit-breaker.(アーク欠陥検出ユニットを回路遮断器とともに組み立てる)となります。これを「アーク欠陥検出ユニットを回路遮断器とともに組み立てるが、後者にはマーキングする」とします。この英文を従来の方法で和訳すると「それとともにアーク欠陥検出ユニットが組み立てられるところの回路遮断器にマーキングする」になりますが、すでに述べたように「それ」は前出の事物を指すので、日本語として成立しません。これで情報分割手法に基づく訳文の方が優れていることがお分かりでしょう。
最後に関係副詞の入った例文The hypothetical daily hydrograph shown in Figure 7.2 is typical of many areas of the United States where the annual minimum flows occur in late summer and early fall.を取り上げます。この文をある訳者は、「図7.2の仮説的毎日の水位曲線は、晩夏と早秋に流量が1年で最少になる米国の多数の地域の典型的な例である」と訳しました。この訳では、「仮説的毎日の」ということばが奇異に感じられる以外、特に理解が困難な点はありませんが、情報分割の手法を用いてもう少し分り易い訳文にしてみましょう。原文は、(1) The hypothetical daily hydrograph (is) shown in Figure 7.2、(2) The hypothetical daily hydrograph is typical of many areas of the United Statesおよび(3) many areas of the United States where the annual minimum flows occur in late summer and early fallの3つの情報で構成されています。これらを直訳すると、
(1) 毎日の仮想水位曲線が、図7.2に示されている
(2) 毎日の仮想水位曲線は、米国の多数の地域でよく見られる
(3) 米国の多数の地域では、年間流量が夏季の後半から秋季の前半にかけて最低になる。
これらを(3) (1) (2)の順で並べると、「米国では、年間流量が夏季の後半から秋季の前半にかけて最低になり、毎日の仮想水位曲線は、図7.2に示されているとおりであるが、この仮想水位曲線は、米国の多数の地域でよく見られる」となりますが、これではやや冗漫な表現になるので、(1)と(2)とをひとまとめにすると、改訳として「米国には、年間流量が夏季の後半から秋季の前半にかけて最低になる地域が多いが、図7.2に示す日ごとの仮想水位曲線がこの状況をよく表している」のようになります。最初の訳例とこの改訳とを読み比べて見ると、後者の方が日本語としてずっと自然であることがお分かりでしょう。
注:typicalは、一般英和辞書によれば、「典型的な」または「代表的な」となっていますが、これを直接あてはめると、やや日本語らしさが失われますので、意訳しました。
以上が、原文の情報が過不足無く取り込まれ、かつ日本語として自然な訳文の作り方です。皆様もぜひこの情報分割手法を活用してみてください。
 

MENU

Copyright(c) 2017 TECHXEL All Rights Reserved.