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Beethovenの発音

 ドイツの作曲家Beethovenの発音について考察してみよう。
 まず、ドイツ語としての発音を知るために三修社「標音 独和」(1958)を参照する。この辞典では見出しBeethovenの次に発音として[be꞉tho꞉vən, ─fən, ベートホーヴェン]を掲げ、そのうしろの言葉の意味の欄にLudwig van ~ 作曲家(1770-1827)と記している。この辞書は、発音を発音記号及びカタカナで表記している。白水社「独和言林」(1982)では見出しをBeet|hoven、発音を[be꞉tho꞉fən]とし、意味の欄にLudwig van (fan, van) ~ (ドイツの音楽家, † 1827)と記している。見出しBeet|hovenの縦線は、音節の切れ目を示している。
 英語の辞書として、研究社「新英和大辞典」(1980)を見ると、見出しをBee·tho·ven、発音を[beitoUvən|beɪthəU-, -təU-, G. be꞉tho꞉fən]とし、意味欄にベートーベン(1770-1827;ドイツの作曲家)と記している。見出しBee·tho·venの中黒点は、音節の切れ目を示している。小学館「英和中辞典」(1980)では、見出しBee·tho·ven、発音[beitouvən]とし、意味欄にベートーベン(1770-1827):ドイツの作曲家と記している。この辞書も中黒点を使って音節の切れ目を示している。
 ドイツ語と英語の発音の違いとして、ドイツ語は長音を使っているのに、英語はあえて二重母音を使っている点が挙げられる。すなわち英語にはbee [bi꞉]という単語があるのに、これを[bei]と二重母音にしているのである。ドイツ語ではeiを[ai]と発音し、[ei]という二重母音は存在しない。
 上記2冊の独和辞典からBeetの後に音節の切れ目があるのが明らかであるのに、英語の辞典では、音節の切れ目をBeeの後に置いている。ただし、研究社「新英和大辞典」では、beɪthəU-及びG. be꞉tho꞉fənの表記も見られるので、ドイツ語の音節の切れ目も認識しているようである。
 作曲家Beethovenの家系のルーツは、オランダにあり、このことはBeethovenの前にドイツの人名で使うvonではなくオランダ語のvanが付いていることからも明らかである。講談社「オランダ語辞典」(2005)には残念ながらBeethovenの見出しがない。ただ上記の2冊の独和辞典から、BeethovenはBeetの後に音節の切れ目があるのが明らかなので、このオランダ語辞典でbeetを引くと= bietとなっており、さらにbietを調べるとその意味は「ビート、テンサイ、アカカブ」となっている。つまりオランダ語のbeetは英語のbeetと同じ意味なのである。後半のhovenは、この辞典に見出しがあり、hofの複数形となっている。hofの意味は「庭、庭園」となっているので、Beethovenは「てんさい農園」のような意味であると推察される。
 日本語表記については、平凡社「大百科事典 第23巻」(1938)では「ベートーヴェン」となっている。Wikipediaによれば、独和の大きな辞典に「ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートホーフェン」とあったとのことである。筆者も中学校時代、先生から元々「ベートホーヴェン」と表記していたが、これが「ベートーヴェン」に変わったと聞いたことがある。一方、教科書では、たとえば学校図書「中学校音楽1」(1956)や教育藝術社「中学校音楽1」(1959)では「ベートーベン」としている。これは、1991年(平成3年)の内閣告示「現代仮名遣い」の中の「外来語の表記」の第1表に従ったものである。すなわち、第2表にヴァ行の表記が記載されているが、第1表に従うことを原則とするとされているからである。
 これに関連してalcoholは、Wikipediaによれば、江戸時代にオランダ語から取り入れられ、「アルコホル」と表記し、発音していた。その後「アルコホル」と「アルコール」とが共存していたが、1931年(昭和6年)に「アルコール」に統一された。
 日本語の歴史的仮名遣いで語頭以外の「ほ」は「お」と発音される ことが多い*ので、「アルコホル」が「アルコール」に変化し、「ベートホーヴェン」が「ベートオーヴェン」を経て「ベートーヴェン」に変化したと考えられる。これに類する発音の変化として、「ほほ(頬)」の「ほお」への変化や、「かほ(顔)」の「かお」への変化があるが、奈良時代からあると思われるこれらのことばの発音がいつごろ変化したのか不明である。また、日本語には二重母音がなく、たとえば「米国」は[ベーコク]と長音で発音される。ただし、音節としては[ベ·イ·コ·ク]のように4音節になる。英語ではたとえばbase [beis]が1音節である。
*「ほほえみ」のように、語中の「ほ」をそのまま「ほ」と発音することばもある。
 さてBeethovenの英語、ドイツ語、オランダ語以外の発音を見てみよう。中国語では「贝多芬」と表記し、拼音表記はbèiduōfēnで、これの発音記号は[beɪtuofən]である。これは英語の発音[beitoUvən]に近い。中国語には[tuo](例:多)以外に[tou](例:都)もあるのになぜ[tuo]を採用したのか不明である。中国語には長音及び[v]音がないので、それぞれ[beɪ]及び[fən]となったのは理解できる。参考までに、中国語には清音・濁音の区別がなく、無気音・有気音で区別している。拼音表記の無気音g、b、dも有気音k、p、tもあくまでも清音で、後者は息を強く吐き出して発音する。
 韓国のハングル表記は、当初베에토오벤[peethooben](音節の切れ目を示すと[pe·e·tho·o·ben])と表記していたが、現在は베토벤[pethoben] (音節の切れ目を示すと[pe·tho·ben])としている。参考までに、朝鮮語には清音・濁音の区別がなく、平音、激音、濃音で区別している。平音の[k][p][t]音は、語頭では清音のように聞こえるが、語中では濁音のように聞こえる。上記[th]は激音なので、語中にあっても濁って聞こえることはない。朝鮮語には発音上長音が存在するが、ハングルでは短音・長音の区別がない。
 以上、Beethovenを例にとって各国語の発音について調べてみたが、さまざまな違いがあることが分かり興味深い。
 

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