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新聞記事を嘆く(5) 名詞句の羅列

 まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。ただし、今回は新聞記者が直接書いた記事を問題にしているのではありません。
このたび取り上げるのは「「慰安婦」記述 事実をなぜ削るのか」と題する社説で、その一節をそのまま引用すれば下記のようになります。問題があるのは下線部分です。
<例えば「現代社会」の教科書では、「強制連行された人々や『従軍慰安婦』らによる訴訟が続いている」というくだりを、「国や企業に対して謝罪の要求や補償を求める訴訟が起こされた」と直すことにした>
この下線部は、もともと「謝罪を要求する訴訟」と「補償を求める訴訟」という二つの名詞句があって、被修飾語「訴訟」を一つにする際に生じた不適切な表現であると考えらます。前回の「新聞記事を嘆く(4)」でも取り上げたように、今回も並列の助詞「や」が関連しています。「謝罪の要求や補償を求める訴訟」において、助詞「や」によって何が並列されているのでしょうか?並列の形式を「AやB」で表すと、これの一つ目の答えは、Aが「謝罪の要求」でBが「補償」であり、二つ目の答えは、Aが「謝罪の要求」でBが「謝罪の補償」です。すなわち、「謝罪の」が「要求」のみを修飾しているのか、「要求」と「補償」の両方を修飾しているのかが明確ではありません。いずれにしても「謝罪の要求や補償」が「求める」の目的語になっているので、名詞又は名詞句が並列されていない形式に書き直すと、上記の一つ目の答えに従えば、「謝罪の要求を求める訴訟」と「補償を求める訴訟」とになり、二つ目の答えに従えば、「謝罪の要求を求める訴訟」と「謝罪の補償を求める訴訟」となります。
「謝罪の」が何を修飾しているのかを明確にするには、例示の意味をもつ並列の助詞「や」を単なる並列の助詞「と」に変更して、「謝罪の要求と補償とを求める訴訟」又は「謝罪の要求とその補償とを求める訴訟」にするしかありません。しかし、いずれにしても「謝罪の要求を求める」、すなわち「要求を求める」という表現は不適切なので使用できません。
これらのことを考慮して、下線部は「謝罪や補償を求める」と書き改めることを提案します。
冒頭に述べたように、これは新聞記者が直接書いた記事ではなく、教科書会社の編集者が執筆し、教科書に記載されようとしている文です。このような誤った表現を教科書に載せることは決して許されません。この社説を掲載した新聞社は、少なくとも教科書会社にこの事実を伝え、訂正するよう要請する義務があります。
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