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新聞記事を嘆く(33) 主語

 まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
 今回は「強さの裏に未熟さ 優勝なき横綱  元双羽黒が死去」と題する記事で、そのまま引用すれば下記のようになります。
 <昇進後、支度部屋で付け人が「こんなやつ、負ければいい」と吐き捨てるのを聞いた>
 この記事には、「昇進する」「負ける」「吐き捨てる」「聞く」の4つの動詞がありますが、それらの主語が明確になっていません。日本語には、提題の助詞と呼ばれる「は」があって、これによって文の主題が決まると、その後たとえ読点で文が切れたとしても、主題はずっと維持されるというのが、この助詞の特徴です。主題と主語とは必ずしも一致しないのですが、たとえば「私は昨日京都へ行った」という文があれば、それ以降新たな主題を示す助詞「は」が現れないかぎり、「私」が主題かつ主語であり続けます。
 記事を表題から読み返してみると、この助詞「は」は、「懐の深さを生かした取り口は」「横綱審議委員会は」「理由は」「土壌があったのは」「残念だったのは」の5回登場します。ただし、読者が「昇進後」まで読み進めた段階で、これらのうちどれも文章の主題になっていると感じられるものはなく、「昇進する」の主語は「双羽黒」であると考えるのが自然であり、事実それは正解です。その後「付け人が」とあるのでこの文の主語が「付け人」であるのは明確です。したがって、読者は「吐き捨てる」の主語は「付け人」であるといったん考えた後、それが間違いであるのに気付き、「聞く」の主語が「付け人」であることを理解するはずです。また文頭の「昇進後」は、文全体を修飾するのがふつうなので、これは「聞いた」を修飾することになり、「昇進する」の主語が「双羽黒」であるかぎり「聞いた」のも「双羽黒」になります。ところが「聞いた」のは「付け人」なのです。このように読者の頭を混乱させるところが、この文の大きな問題です。
 これを<昇進後、「こんなやつ、負ければいい」と吐き捨てるのを支度部屋で付け人が聞いた>と書き換えれば、たとえ主語を記載しなくても「昇進する」と「吐き捨てる」との主語が「双羽黒」であることが明確になります。この記事の校正段階で、語順さえ入れ替えておけば、こんな悪文は生まれなかったはずです。校正部門は、当然の務めを果たしていなかったことになります。
 
 このような悪文を真似してもよいのでしょうか?この文は、「教育に新聞を!」の主旨にまったく一致していません。
 
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