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新聞記事を嘆く(21) ため

まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
 このたび取り上げるのは、「酒蔵ウェルカム」と題する記事で、その本文をそのまま引用すれば下記のようになる。
 <関西の清酒大手が、観光客向けのサービスを強化している。酒蔵見学に訪れる訪日外国人客らが増え、人気のためだ>(下線は筆者による)
 この記事の下線部の「人気のためだ」の意味を読者はすぐに理解できるだろうか?理解しにくい理由は語句が簡略化されすぎている、言い換えれば舌足らずの表現になっているからである。この「ため」は、「新明解国語辞典」三省堂(1983)によれば、形式名詞的に(1)その事を目的とすることを表す。「受験の──上京する(以下略)」 (2)その物事が原因・理由であることを表す。「かぜの──会社を休む(以下略)」となっている。下線部の分かりにくさは、「ため」の用法が「目的」なのか「理由」なのか明確でないことである。
 「ため」の用法が「目的」である場合、下線部をもう少し詳しく書くならば、たとえば「人気を高めるためだ」となる。「ため」の用法が「理由」であるなら、たとえば「人気が高まっているためだ」となる。ただ、直前に「外国人客らが増え」とあるので、「人気が高まっているためだ」とつながる方が自然である。「人気を高めるためだ」と自然につなげるには、「外国人客らを増やし」としなければならない。このことから記者は「サービスを強化している理由は・・・」と言いたかったのであろう。
 上記の「ため」以外に「人気」について検討してみよう。「人気」は名詞であるが、現在の日本語において形容動詞化しつつある(「新聞記事を嘆く(3) 名詞の形容動詞化」参照)。形容動詞化の過程として、まず名詞に助詞「の」が付き、たとえば「今若者たちに人気のスマートホン」のような表現が登場する。この場合、「今」も「若者たちに」も連用修飾語なので、これが名詞の「人気」を修飾しているのではなく、「人気の」という用言(活用語、すなわち動詞、形容詞及び形容動詞)を修飾していることになる。これが発展してすでに「今若者たちに人気なのは」に見られるような「人気な」ということばが生まれている。「な」は「元気な」「静かな」のような形容動詞連体形の活用語尾である。記者が「人気の」としたのは、名詞「人気」+助詞「の」ではなく、現在仮想の形容動詞である「人気だ」の連体形「人気な」が頭にあり、「人気なためだ」の前段階の表現としての「人気のためだ」を用いたのではなかろうか?
 今回の論点は下記のように二つある。
(1)意味が二つにとれる文は絶対に書いてはならない。これはあらゆる言語に共通する鉄則である。
(2)「人気だ」「話題だ」「ブームだ」のような形容動詞化しつつあることばは、現実に世間で使われているので、間違いということはできないが、学校ではこれらの過程を過渡期の現象として捉えて、これらは現時点では正規の日本語ではないことを教えなければならない。
注:筆者は、2014年1月21日の午後7時のNHKテレビニュースでアナウンサーが「シニアー層に人気の・・・」(・・・は名詞)という表現を使っているのを聴いたことがある。なぜ「シニアー層に人気のある・・・」と言わないのだろうか?NHKの日本語の表現の基準はどうなっているのだろうか?筆者は個人的にはNHKが非正規の日本語を使うことに反対である。
 
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