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新聞記事を嘆く(19) 比較級

今回の話題は、従来の「新聞記事を嘆く」シリーズのように、ある新聞記事の間違いや不適切な表現を指摘して、改善案を提示するものではない。ただ、ある語句に注目して、種々の考察を試みることにより、国語の学習者の教材になることを期待してしたためたものである。
 このたび取り上げるのは、「注目されるハッシュタグAI提案」と題する記事で、その本文をそのまま引用すれば下記のようになる。
 <その上で、投稿者が写真にタグを付けた場合、趣旨を変えないまま、より人気が出そうなタグをAIが提案できるようにした>(下線は筆者が付けた)
 上記下線部の「より人気が出そうな」が今回の主題となる語句である。
 まずこの語句を単語に区切り、各々の品詞を検討してみよう。この語句に区切り線を入れると「より|人気|が|出|そうな」となる。
 「より」は、副詞であり、「広辞苑」岩波書店(1985)によれば、「(助詞「より」から転じ、ヨーロッパ語の形容詞比較級の翻訳として生じた語) もっと。いっそう。「─多くの人々」」となっており、また「新明解国語辞典」三省堂(1983)によれば「(翻訳調の言い方で)何かに比べて・(普通以上に)もっと程度が超えていることを表す。「─強力な機械・─楽しい人生・人生を─良く生きることを考えるべきだ」」となっている。「人気」は名詞である。「が」は格助詞である。「出」は、下一段活用の動詞「出る」の連用形である。「そうな」は、様態を表す助動詞「そうだ」の連体形である。
 ここで焦点になるのが副詞「より」の使い方である。上記「広辞苑」及び「新明解国語辞典」の記述から、この「より」は形容詞及び形容動詞を修飾することが分かる。ところが今回の新聞記事の語句「より人気が出そうな」には形容詞も形容動詞も含まれていない。ただ、「より効果の出やすい」や「より性能が優れている」のような、「より」の後に形容詞も形容動詞も登場しない表現はよく使われているので、この記事の語句が日本語として不適切であるとは言えない。すなわち、「より」は形容詞及び形容動詞という単語だけではなく連体修飾の役目をもつ語句(複数の単語で構成される)をも修飾するという用法があることになる。
 「簡明口語文法」日栄社(1956)では、副詞を意味の上から7種類に分類し、「程度をしめすもの」として20の副詞を挙げていて、ここに「もっと」が含まれているが、「より」は入っていない。「修訂 大日本國語辭典」冨山房(1952)でも副詞の「より」は掲載されていない。「新訂 大言海」冨山房(1956)では「より」の品詞は(辭)とされており、副詞の扱いはされていない。語義としては「コレより、ソレよりノ略。「より長キ間」(多ク外国語ノ翻譯ニ用ヰル)」と記述されている。(辭)の意味は、「てにをは」すなわち助詞となっている。これは「コレより、ソレよりノ略」の「より」が助詞であるためと考えられる。「より」が副詞として、いわば「翻訳調」で、使われ出したのは、いつ頃からかはっきりしないが、終戦(1945年)後と考えてよいのではないだろうか?
 「より人気が出そうな」という表現については何ら問題がないことが分かった。ただ変更案を示すと「もっと人気の出そうな」となる。変更点の一つ目は、翻訳調の「より」を平易な「もっと」に変えたこと、そして二つ目は主格を示す格助詞「が」を連体修飾句の中の主語を示す格助詞「の」*に変えたことである。
*文が言い切りの形の場合、「人気が出そうだ」のように助詞「が」しか使えないが、連体修飾句中であれば「人気が出そうな」と「人気の出そうな」のように「が」も「の」も使える。ただし、連体修飾句の中の主語を示す「の」は、文がまだ終わらないという予告をする役目をもっているので、「が」よりも「の」を使う方がよいと言える。
 以上の論点を整理してみると
(1)この新聞記事で使われている「より」は、副詞であって単語である形容詞及び形容動詞だけではなく複数の単語からなる連体修飾句を修飾する。
(2)この「より」は、翻訳調のことばであり、「もっと」に置き換えた方が平易な表現になる。
(3)連体修飾句の中で主語を示す助詞としては、「が」よりも「の」を使う方がよい。
 
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