HOME » 日本語 » 新聞記事 » 新聞記事を嘆く(11) 名詞句の並列

新聞記事を嘆く(11) 名詞句の並列

 まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
このたび取り上げるのは、朝刊「ワールドけいざい モンゴル、日本にラブコール」と題する記事で、その一節をそのまま引用すれば下記のようになります。問題があるのは下線部分です。
中国、そして石油の輸入が多いやはり隣国のロシア以外の国との経済交流を増やし、中小企業の育成など「鉱物資源に頼らない、競争力のある産業を育てていく」ことが課題だ>
この文には、二つの欠陥があります。
(1)「AとBとの経済交流」という並列された名詞と名詞句とが助詞「の」によって「経済交流」という名詞句を連体修飾している形式になっていますが、「中国」と何とが並列されているかが不明確でです。
(2)「石油の輸入が多い」が何を修飾しているのか、また「輸入する」という行為の主体がどの国なのかが不明確です。
以下にこれらについて検討します。
(1)この連体修飾句を構造面から見て、「中国」と何とが並列されているのでしょうか?可能性のある解釈としては
1)「中国とロシア以外の国と」
「ロシア以外の国」には並列の助詞「と」が付いているので、構造上はこのように解釈するのがもっとも妥当です。
2)「中国とロシア」
構造上はこの並列関係はありえません。というのは、並列の助詞「と」は、並列された名詞(名詞句)の各々に付けるのが原則となっていますが、「中国とロシアと以外」という言い方は不自然であるばかりでなく、「中国とロシアと以外の国との」とすると、「中国」「ロシア」「以外の国」の三つが羅列されていることになるからです。
さて、意味上から考えると、「モンゴルは、中国とロシアとを除いた国との経済交流を増やすことを課題としている」ことになります。したがって、意味上上記1)が間違いで2)が正しいことになります。すなわち、構造上の欠陥があるために正しいことが伝えられていないわけです。これについての下線部の改善案は
<中国と・・・のロシアとを除いた国との>
となります。
(2)文の構造上、「石油の輸入が多い」が修飾している可能性があるのは、1)「隣国」、2)「ロシア」及び3)「ロシア以外の国」です。また、「石油を輸入する」行為の主体として可能性があるのは、「モンゴル」(文中に明記されていない)「隣国」「ロシア」及び「ロシア以外の国」です。
さて文の前後関係から考えると、意味上「モンゴル」が「輸入する」行為の主体でなければなりません。ではどこから輸入するのか、つまり貿易相手国は、「ロシア」又は「ロシア以外の国」になりますが、これも文の前後関係から考えて「ロシア」となります。
すなわち、記者はこの記事に、i)「中国とロシアとを除いた国との経済交流を増やすことがモンゴルの課題である」、ii)「モンゴルは、ロシアから大量の石油を輸入している」及びiii)「中国とロシアとは、モンゴルの隣国である」の三つの情報を盛り込もうとしており、文全体の長さを縮めるために、「モンゴル」を省略し、修飾関係の明確さに配慮することを怠ったためにこのような悪文ができあがったのです。
改善案として、情報iii)を省略するなら
<中国と、モンゴルが大量の石油を輸入しているロシアとを除いた国との>となり、
すべての情報を盛り込むなら
<隣国の中国と、モンゴルが大量の石油を輸入しているやはり隣国のロシアとを除いた国との>となります。さらに文の初めに<モンゴルにとって、>を挿入すれば、文意がもっと明確になります。ただ、文意を明確にすればするほど、くどい文になってしまいます。
本件から得られる教訓は、「修飾句にあまり多くの情報を盛り込みすぎないこと」と言えるでしょう。
[補足説明]
この記事を英訳すれば、たとえばThe challenges facing Mongol is to promote economic exchanges with countries other than the neighboring China and Russia, from the latter of which Mongol imports large amounts of oil…(後半省略)となります。記事の「石油の輸入が多いロシア」は、これだけ見れば「ロシアが大量の石油を輸入している」と解釈されます。英語では関係代名詞の前に前置詞を付けることにより誤解を防ぐことが、できますが、日本語には関係代名詞がないので、あいまいな表現になってしまいます。したがって、このような英文を和訳する場合、かなりの困難を伴います。
たとえば、This is a pen with which I always write.を和訳すると「これは、私がいつも書くペンだ」のようになって、withを訳すことができません。withを訳すためには「私はいつもこのペンで書く」としなければなりませんが、これを英訳するとI always write with this pen.となって元に戻りません。
 
この新聞記事のコピーを見たい方は、ここをクリックしてください。
 

MENU

Copyright(c) 2017 TECHXEL All Rights Reserved.