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新聞記事を嘆く(10) 比較級

 まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
このたび取り上げるのは、夕刊「ひと 台湾の人たちを日本にいざなう」と題する記事で、その一節をそのまま引用すれば下記のようになります。問題があるのは下線部分です。
<世界でいちばん日本に来た台湾の人たち>
この「いちばん」の意味は、三省堂「新明解国語辞典」(1981)によれば「(副)序列・等級・程度などが、ずばぬけている様子」となっています。これは、比較の最上級の副詞「最も」と同じ意味であると考えられます。「新聞記事を嘆く(8)」でも述べたように、何かを比較する文には、形容詞、形容動詞、連体修飾句または数量や程度の増減を示す動詞が含まれていなければなりません。これらの例を挙げると次のようになります。
形容詞:大きい、高い、多い、安い、むずかしい等
形容動詞:静かだ、元気だ、立派だ、安全だ等
連体修飾句:人気のある、将来性のある、見込みのある等
数量や程度の増減を示す動詞:増す、増える、増加する、減る、減少する、向上する、改善する、悪化する等
さて上に引用した記事を見直してみると、上の例のような比較の文に必要な語句が含まれていません。したがって、この記事には欠陥があると言えるでしょう。
この記事の改善案は以下のとおりです。
<日本に来た人数が世界でいちばん多い台湾の人たち>
すなわち、改善案では副詞「いちばん」で修飾される形容詞を「多い」とし、「多い」の主語を「人数」としました。記事には、副詞「いちばん」で修飾される形容詞等がなく、したがってその形容詞等の主語もありません。なお、「世界でいちばん日本に来た人数の多い台湾の人たち」のように、「人数の多い」を記事の文に挿入すれば、ほぼ問題は解決しますが、副詞は被修飾語の直前に置いた方が日本語として安定します。
[補足説明]
(1)格助詞「の」の用法の一つに「連体修飾節の中の主語を示す」があります。「世界でいちばん日本に来た人数が多い。」のように格助詞「が」を使えば、「多い」は終止形になります。すなわち、形容詞は終止形と連体形とが同じなので、格助詞「の」は、それに続く形容詞が連体形であることを示す役目をしていると言えます。なお改善案を「日本に来た人数世界でいちばん多い台湾の人たち」と言うこともできますが、「人数の」が「世界」の連体修飾句であると一瞬勘違いするおそれがあるので、もとの改善案の方が優れています。
(2)もう一つ検討の余地があるのは、「日本に来た人数が世界でいちばん多い台湾の人たち」は、連体修飾句が非常に長く不安定な感じがすることです。改善案として「昨年、日本に来た台湾の人たちの数が、世界でいちばん多かったが、彼らが頼りにするもの・・・」が考えられます。この場合、主語「数」の修飾語が「日本に来た台湾の人たち」であり、記事の改善案として示したものより短くはなっていますが、まだ改善の余地がありそうです。これを「台湾の人たちは、昨年日本に来た人数が世界でいちばん多かったが、彼らが頼りにするもの・・・」とすれば、日本語でよく使う表現になります。これはいわゆる「象は、鼻が長い」、すなわち「Aは、Bが・・・(述語)」の表現になっていて、まず主題Aを、次に主語として主題Aに関する語句を、最後に述語を示すという形式です。冒頭で引用した語句は、新聞記事なので、できるだけ短い文にするため、あのようになったのでしょうか?
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