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新聞記事を嘆く(22)

 まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
 このたび取り上げるのは、「拉致解決 家族が生きているうちに」と題する記事で、その本文をそのまま引用すれば下記のようになる。
 <現在は新潟産業大準教授として、北朝鮮で身につけた韓国語を教える>(下線は筆者による)
 この記事の下線部の「韓国語」は、「朝鮮語」の間違いである。というのは、「韓国語」は韓国(正式名称は「大韓民国」)における「朝鮮語」の呼称だからである。したがって「韓国語(한국어ハングゴ)」ということば自身が日本語ではなく、日本ではたまたま漢字を使っているので、韓国での「朝鮮語」の呼称である「韓国語」が日本に導入され、「かんこくご」と読んでいるにすぎない。北朝鮮では、そもそも「韓国語」という呼称が存在しないので、北朝鮮で「韓国語」を学ぶことは不可能である。この記事を書いた記者が、朝鮮半島で使われている言語が「韓国語」であると認識しているとすれば甚だしい誤解である。この記事が北朝鮮で読まれれば大きな問題になる可能性がある。
 日本において「朝鮮語」と「韓国語」という呼称のどちらが正しいのかあらためて考えてみよう。まず、言語は民族に属するものであって、国家に属するものではない。それはドイツ語がオーストリアで、スペイン語がアルゼンチン等中南米諸国で、またポルトガル語がブラジルで公用語として使われていることから分かる。それでは民族とは何か?新村出編「広辞苑 第三版」岩波書店(1985)によれば、「文化の伝統を共有することによって歴史的に構成され、同属意識をもつ人々の集団。文化の中でも特に言語を共有することが重要視され、また宗教や生業形態が民族的な伝統となることも多い(以下略)」となっていて、当然のことながら国家ということばは登場しない。
 話しは変わるが、以前NHK朝鮮語講座名事件というのがあった。これは1982年にNHKが語学番組「朝鮮語講座」を作ろうとした際、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)が「朝鮮語」、在日本大韓民国民団(民団)が「韓国語」という呼称を用いるように主張したことで対立した事件である。ここでは根本的な認識不足が見られる。すなわち、NHKの語学講座は、何語の講座であっても日本語で行われるものであって、そのテキストの名称は当然日本語で表される。一方、上に述べたように「韓国語」という呼称は、日本語ではなく、韓国で使われているハングル表記の名称を日本語の漢字で表記したものである。韓国は、以前漢字ハングル混じり文を使用していた。そのときは「韓國語」と表記していた。「国」という漢字は、日本及び中国における正字(中国の簡体字)であるが、韓国では俗字である。これは大漢韓辭典編纂室編「教學漢韓辭典」教學社(韓国)(2013)の「国」の項に「俗字」と書かれていること、またこの辞典の出版社及び名称自身が繁体字で表記されていることから分かる。
 繰り返していうが、「韓国語」という呼称は、韓国で使われている呼称の発音を、日本で使われている漢字に転記したものにすぎず、あくまでも日本語ではない。したがって日本語には「朝鮮語」という呼称しか存在しない。
 筆者の手元に宋枝学著「基礎朝鮮語」大学書林(1958)、宋枝学編「日朝会話練習帖」大学書林(1958)及び宋枝学編「朝鮮語基礎1500語」大学書林(1959)があり、この当時は「朝鮮語」という呼称しかなかったことが分かる。
 なお大韓民國臨時政府が1919年に設立され、少なくとも1932年には上海で活動が行われていた。1945年の日本の敗戦後、連合国は大韓民国臨時政府の政府承認を否定し、朝鮮全土を連合国軍の占領下に置いた。その後、1948年に米軍統治下の朝鮮のみで独立することが決まり、新国家の国号が「大韓民國」に決定した。この国家の言語は、上記大学書林の書籍名から分かるように「朝鮮語」と呼ばれているが、韓国政府がいつごろから「韓國語」という呼称を用いるよう通達したのかについては、筆者は把握していない。
 
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