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新聞記事を嘆く(16) 形式名詞「ため」

まえがきについては、「新聞記事を嘆く(1)」をお読みください。
 このたび取り上げるのは、「救われず71年 空襲、見捨てられた民(2)」と題する記事で、その本文をそのまま引用すれば下記のようになる。
 <志気に影響する恐れや軍需工場の要員確保のため、政府は成人の疎開に消極的だった>
 この文には二つの問題点がある。すなわち、助詞「や」及び形式名詞「ため」の使い方が間違っている。
 まず「や」は、学習研究社「国語大辞典」によれば、並立助詞であり、同類のものを例示的に並べあげるのに用いる。今回取り上げた記事では、<志気に影響する恐れ>と<軍需工場の要員確保>とが並列されているが、これら二つの語句は「同類のもの」とは言えない。
 次に形式名詞「ため」には、二つの用法がある。同辞典によれば、一つは「その事が次に述べる事の目的であることを表す」であり、もう一つは「その事が次に述べる事の原因・理由であることを表す」である。今回の記事の各語句に「ため」を付けると、<志気に影響する恐れのため>と<軍需工場の要員確保のため>とになる。前者の「ため」は理由を表し、後者は目的を表す。一つの「ため」が、理由と目的とを同時に表すことは不可能なので、この文は間違いである。
 この文の改善案を考えてみよう。<志気に影響する恐れのため>と<軍需工場の要員確保のため>は、それぞれ<志気に影響する恐れがあるため>と<軍需工場の要員を確保するため>とした方が、滑らかな日本語になる。これは「ため」の前には動詞の連体形が付くことが多いからである。これらをくっつけると<志気に影響する恐れがあるため及び軍需工場の要員を確保するため>となる。こうすれば、前の「ため」と後ろの「ため」とは、それぞれ理由と目的とを表すことになる。「や」を「及び」に変更したのは、二つの語句が、「同類のもの」とは言えないので、「や」を使えないからである。
 なお、この記事の筆者は、<政府は成人の疎開に消極的だった>理由及び原因が、これ以外にもあることを表現したかったものと推察する。その場合、たとえば<志気に影響する恐れがあることや、軍需工場の要員を確保する必要性があることから>とすればよいだろう。
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